トップ創作SSトップ>What's a present?
What's a present?
※トラップ誕生日記念SSです。




朝一番のエベリン行き乗合馬車の前で、わたしは一人、「今日の主役」を待っていた。
待っていたけど。
このまま現れなかったらどうしよう。
だから、みすず旅館から一緒に行けばよかったのに。
ううん。
もっと言えば、やっぱりこの計画自体が変なんだと思う。



[1]
そもそもは2週間ほど前。
パーティ仲間であるトラップに「誕生日近いけど、何か欲しいものある?……と言っても
わたしのお小遣い範囲でだけど」と聞いたところから話は始まる。
当然モノの名前が列挙されるかと思っていたら、待っていましたとばかりに
「だったらさ。プレゼントはいらねぇから、その日にちょっくらエベリンに一緒に行ってくれよ」
などと言い出したのだ。
エベリンに行くだなんて、その方が高くつくじゃない?
だから
「そんなエベリン往復の交通費、しかも二人分なんて絶対無理!」
って言ったんだけど、なんと
「ぶわぁか。誰が代金出せっつったよ。そんくらい、おれの手持ちで大丈夫だ。
おまえはついてくればいいだけなんだから楽なもんだろ?」
って言い返されちゃった。

でも。
なんで?
なんで誕生日プレゼントの話から買い物につきあう話になるの?
全っ然、話についていけてない私だったけど、とにかく(家計的には)タダでエベリンに行けるみたいだし、
トラップの勢いに押されて結局行くことになった。
タダという言葉につられる辺り庶民的すぎてトホホだけどね。

で、思わずオッケーはしたものの、その後もう1回よく考えてみた。

うーん、つまり、エベリンにしか売ってないものをわたしが一緒に行って買ってあげるってことかな?
そんなにレアなものなんだろうか。
わたしのお小遣いでなんとかなる範囲なのかなぁ。
あれ?
違う、違う。
そういやトラップってば「プレゼントはいらねぇ」って言ってたんだっけ。
じゃ、わたしが向こうで買う訳ではないんだ。
そしたらエベリン行って何するんだろ?
しかも、なんでわたしとなんだろ?

何度考えてもわからなかった。
「じゃ、いいよ」ってわたしが言った後のトラップの満足そうな顔を思い出すと
何か罠があるような気がしないでもない。
だけど、冒険目的抜きでエベリンに行くことなんてなかったから、色々考えているうちにそんなことは
どうでもよくなって、自分までなんだか楽しみになってしまっていたのだった。

そして、前日の夜。
トラップが突然、わたしの部屋のドアを開けたかと思うと
「明日、朝イチの乗合馬車前で待ち合わせな」
とだけ言って、すぐにどこかへ行ってしまった。

……変。
すっごく変じゃない? それって。
だって、隣の部屋にいるんだよ。
しかもトラップってば朝早いの弱いから、そういう時はわたしが起こすんだよ。
ここから一緒に行くのが普通じゃない?
そう思って、今朝起きてすぐに隣の部屋をのぞいてみたら、既にお布団の中はトラップの分だけもぬけの殻。
しょうがなくわたし一人で向かったら、未だにトラップが来ないっていうのが冒頭の状況なのだ。




もしかして夜中ずっとギャンブルやってたんじゃないでしょうねー。
うう、ありそうだから恐い。
もうチケットは買ってくれていて、わたしの分は渡されて持っているけど、このまま本当に来なかったら
どうすればいいんだろう?

……と色々不安がうずまいた頃に、よく聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
「よ! 待ったか」

はぁぁぁぁぁ。
心の底から安心する。
と同時に、なぜか嬉しそうなトラップの顔を見てるとポカッとしたくなった。
「待ったか、じゃないでしょ! まったく、もう」
私の手を避け、さらににんまりする。
「つまり、待ったってことか」
「……ちょっとだけ」
わたしが答えると、なぜか彼は乗合馬車の角に片手をかけ、もう片手で握りこぶしを作って恍惚としていた。


……大丈夫?


その不安は、乗合馬車に乗ってからも実はずっと続いていた。
だって!
トラップのテンションが明らかにいつものと違うんだもの。
確かに普段からトラップはよくしゃべる方だけど、この日はそういうのとはまた違った勢いがあった。
今年の小麦の出来はどうの、とか
最近のエベリンの観光地化について、とか
普段はしゃべらないようなことばっかり。
急に社会情勢に興味でも持ったんだろうか……。
とにかくわたしはよくわからないまま、トラップの勢いに逆らわないよう
笑顔で頷くことにした。
でも途中から話もよくわからず、わたしはだんだん眠くなってしまった。
昨日も寝るのちょっと遅くなったしなぁ。
我慢できずうつらうつらとすると、トラップは話すのを止め、何やらゴソゴソとしていた。
その後、紙を開くような音が聞こえた気がしたけど、わたしはそのまま眠ってしまった。



[2]
「着いたぞ」と起こされて、ようやくエベリンに降り立つ。
さてと。
どうするんだろ? と思って、トラップを見上げると、トラップはあらぬ方向を見て
「あー、エベリンだとおまえいっつも迷うからな。最初からこうしておく」
と言って、わたしの手をがしっと握った。
100%事実だもんなぁ。何も言い返せない。
わたしは素直に従うことにした。

トラップは馬車の中とは打って変わって口数が少なくなっていた。
しかも、なぜかゆっくり歩いてる。
いつもだったら混んでいる市場をトラップがずんずん先へ行って、半ば引っ張られるようにわたしが後から
懸命についていくっていうパターンなのに。
今日はすごくゆっくり歩くから自然に並んで歩く形になる。

それでいて、隣にいるのにひたすら前を向いて黙ってる。
「怒ってるの?」
と聞いたら、とまどった顔をして
「え? あ、いや。
……あ! 歩くの早いか?」
なんて妙に優しい言葉で返してくるし。
なんかこれじゃデートみたいじゃない?

デ、デート?

自分の言葉にどきりとする。
うわわ。
わたしったら突然何考えてるんだろ。
今のは考えなかったことにしよう、って思うのに
なんだか意識してしまって、わたしまで黙ってしまった。

それに大体、今、どこに向かってるんだろ。
ほんとに今日のトラップは全然わからない!
トラップが変だから、わたしまで変なこと考えちゃうんだ。
そうだ、そうだ。

わたしが頭の中でごちゃごちゃ考えていると、細くて高い背中がふいに止まった。
「ここで昼メシ食おうぜ」
トラップがくいっと親指で指したそのお店は、女の子に人気のパスタ店だった。
おいしくて、かわいくて、今ドキで、わたしの憧れのお店だけど……。
「食べたいけど、ごめん。そこまでのお金は……」
わたしが申し訳なさそうに言おうとすると、トラップは人差し指をちっちっと振ると
「言ったろ? 今日はおれの手持ちでなんとかなるって」
と言いながら、チリンとかわいくなるドアを開けて中へと入ってしまった。

へ?
つまり、お昼をおごってくれるってこと?
トラップが?
なんで? なんで?
これじゃ、ますますデー……

わー、やめやめ! 変なこと考えるのはやめ!
とにかくせっかく憧れのお店に入れるんだし、次にいつ食べれるかわかんないんだから、思いっきり味わなきゃ!
わたしは頭をふるって慌ててトラップの後を追って入った。



次へ
inserted by FC2 system