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光の先 |
ふと気づくと、完全に迷っていた。 いつもなら一緒にいるシロちゃんとルーミィもいない。 それどころか荷物すら何も持ってない状態で、 わたしは一人暗闇が支配する森の中に立ちすくんでいた。 どうしよう。 どうすればいいんだろう。 耳を済ませてもどこからも何も聞こえない。 1m先はもう、木の黒と地面の黒と空中の黒が溶け合ってせまってくる。 このまま立ち止まっていたら、永遠に闇の中に取り残されるような不安に駆られて、 わたしは恐る恐る歩き出した。 一歩。 一歩。 そうやって進む分、後ろには新たな闇が広がる。 自分の歩く音すら何かに吸い込まれていくように聞こえない。 そして、目の前には新たな闇。 どうして今ここにいるかも思い出せなくなってる。 わたし、本当に何かの世界に取り込まれちゃったんだろうか? 心臓がドキドキしてくる。 恐い。 助けて。 たまらず走り出そうとしたその時、前方の木々の間に白い光を見た気がした。 あの光へ。 わたしは他には何も考えず、ただひたすら光の方へ走っていった。 転んでも。 転んでも。 光が徐々に近づく。 その先に誰かがいる気がして、無意識に手を伸ばした。 その手が掴まえたのは。 「あれ……?」 うっすら目を開けると、わたしは横になっていて、隣ではトラップが焚き木の前に座っていた。 「どーした?」 わたしの手はトラップの服の裾を強く握ったままだった。 「ヘンな夢でも見たのか?」 そう言いながら、握ったままの私の手を優しくぽんぽんと叩く。 夢。 そっか、夢か。 よかった……。 わたしはほっとして、また目を閉じた。 耳元では焚き木のはぜる音が温かく響いている。 こんな風に。 私が恐い時、助けて欲しい時、いつも一番近くにいてくれる人。 さっきの夢の中で光の先にいるような気がした人。 それは、きっと。 きっと……。 手の先のぬくもりを感じながら、わたしは再び眠りに落ちていった。 Fin. |