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ファーストプレゼント
※パステル誕生日記念SSです。
このSSは外伝Vの頃が設定になっています。
もちろん、読んでなくても話はわかりますし、ネタバレもほとんどないですが、
まだ未読でこれから読む予定がある方は、読み終えてからの方がいいかもしれません。





[1]
つまり、あれだ。
悪いのはクレイだ。

事の起こりは2週間ほど前。
はじめてのクエストを終えたおれらは、気づけばみすず旅館を定宿にし、猪鹿亭の常連となっていた。
肩からぶら下げているのはもちろん、ピッカピカに輝く「レベル1」の冒険者カード。
で、その時はその猪鹿亭に全員揃っていて、冒険者カードの見せ合いをしていた。
もちろん、今までだってお互いのカードは見ているし、今更見せ合っても新しいものなんぞなんもないくらい
シンプルかつ停滞中のカードなんだが、だからこそ、時々取り出してやらないと自分達が冒険者ってこと自体、
忘れそうになるってところが本音。
かーっ、情けねえ。

で、だ。
しょうもないことをあーだこーだと言い合ってたら、クレイがふとパステルのカードに目を留めて、言いやがったんだ。
「あれ? パステルの誕生日って2月5日なんだ。もうすぐじゃん」
と。

あーあーあ。
女の誕生日を知っちまうとどうなるかなんて、全然考えてないんだよな、やつは。
いや、知っていても言うのがクレイでもあるか。
おれもさっきちらっとそうは思ったけど、口には出さなかったのに。
ったく。

案の定、パステルは「実はそうなんだ」と照れながら言いつつ、わかりやすい程嬉しそうな顔をしている。
こいつとのつきあいはまだそんなに長くはないが、こいつは本当にわかりやすい。
妙に大人びているマリーナだとか、クレイに言い寄る色仕掛け女とかばっかりを見てきたおれにとっては、
このわかりやすさは驚異的にさえ見える。
いや、ま、そんなことはどうでもいいか。

その後の展開もご想像通り。
次の日辺りだったか、クレイがおれとキットンに声をかけてきた。
「パステルの誕生日にさ、皆でちょっとしたものをあげないか? おれ達貧乏だから一人だと大したものあげられないだろ?
だから、皆で少しずつ出しあってさ。……と言っても3人で出し合っても大したもの買えないだろうけど」
この律儀さがモテる要素でもあるんだろうな。ご苦労なこった。

「ぎゃはははは。確かにそうですねえ。でも大事なのは気持ちですから、大丈夫じゃないですか?」
「そうだよな」
クレイとキットンが既に3人合同プレゼントを前提に話しているので、おれはぴしゃりと言い放った。
「悪いけど、おれ、パス」
「え?」
二人の視線が一気に集まる。
「あまい、あまい、あまい、あまい! そんな仲良しごっこしてるから金が貯まんねえし、クエストにも行けねえんだよ。
おれにはそんなムダ金はない」
クレイは明らかにむっとしていた。
「そんなこと言うなよ。仲間だろ」
「だからって、金出してまで祝うかどうかは別。……なんなら、その金おれに預けて増やすってプレゼントなら協力するけど」
おれはそう言うと、二人の冷たい視線を感じながら、そのまま部屋を出た。

大体なんでおれが、恋人でもなけりゃ情報収集に協力してくれる女でもないやつにプレゼントあげなきゃいけねえんだ、と思いながら。

一方で、クレイに誕生日を言われた時のあいつの嬉しそうな顔をなんとなく思い出していた。


……な?
つまり、悪いのはクレイなんだ。




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