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三度目は
※このSSは「新1巻」のエンド直後の設定です。
[1]

ここはドーマの居酒屋「ゴウシの酒屋」。

クレイに誘われたのがきっかけでドーマへの里帰りについていったわたし(とルーミィ&シロちゃん)。
そこでゆっくりするはずが、いきなりトラップが誘拐されたところから始まって、
シロちゃんがお母さんと再会してわたし達とはさよならすることになって……
でも、最終的にはまた一緒にいられることになって……と、気づいたら
目まぐるしい冒険に巻き込まれてた。
色々あったけど、今は全て収まってこうして居酒屋でゆっくり食事をしているんだ。

それにしても、冒険が終わってゆっくり味わう食事っていうのは本当に最高!
しかも。
目の前にたっくさん並んだ食事もほとんど皆の胃の中に消え失せ、
もうこのままベッドに連れて行って〜!というぐらいおなかいっぱい。
貧乏パーティがなぜそんな食い倒れ状態になっているかって?
実は、頑張ったご褒美ってことで、トラップのじーちゃんのツケで食べていいということになったんだ。
だから、トラップはもちろんのこと、皆遠慮せず食べる、食べる。
かくいうわたしも「食べれる時に食べる」という冒険者精神にのっとって……なんて
かっこいい言い訳をしながら嬉々として食べたんだけど、さすがにもう限界。
ルーミィなんて、テーブルに突っ伏して幸せそうな顔してすっかり寝ちゃってる。


「くっ……。おれとしたことが……。デザートまで到達できなかった……」
うめくようなトラップの声に、クレイはげんなりした顔で答える。
「これだけ頼んでデザートまで注文しようとしてたのか?」
「あったりめーだろ。次いつこんなに食えるかわかんねーんだからさ!
ましてやデザートなんて普段食べれねーもん食べずに終わるなんてもったいねー!
……でももうさすがに無理……」
普段おなか一杯食べられないってことが前提になってるのが、間違ってないんだけど悲しい。
本当にいつになったら貧乏脱出できるんだろ、わたし達。
願って叶うならいくらだって一生懸命お願いするんだけどな。

……ん? お願い?

そうだ!!
一気にお金持ちになる方法あるじゃない!
「今度ホワイトドラゴンに会うことがあったら
“毎日いっぱい食べれるほどの大金持ちにしてください”
って言えばいいんじゃない?」
なかなかの提案と思ったんだけど
「ぶわぁーか! 人生で3度もホワイトドラゴンに会える奴いねーよ!
大体な、“毎日いっぱい食べれるほどの大金持ち”っていうのが
なんか微妙すぎて情けなくないか?
“毎日いっぱい食べれない大金持ち”なんていねーじゃん!」
と、トラップに一蹴されてしまった。
な、なによ! 私だって好きでこんなこと思いついた訳じゃないもん!
みんな貧乏が悪いんだーっ!……って、この考えが10代の女の子の
考えることじゃないよね……。しくしく。
と一人嘆いていると、
「でも、二度あることは三度あるとも言うし、今度会ったら何をお願いするか
考えておくのも悪くないかもしれないな」
さすがはリーダー。ちゃんとクレイは話にのってくれた。
「じゃあ、クレイだったら何をお願いする?」
わたしが聞くと、
「冒険で一番恐いのはやっぱり仲間が死ぬことだから、
“仲間を死なないようにしてください”ってのはどうかな?」
と返ってきた。確かにね。もう前のノルの時のような悲しいことはいやだもん。
それはいいかも。
わたしが頷くと、トラップがこっちを向いてにやっと笑った。
「ってぇーことは、モンスターにどんなに内臓ブスブスやられても死なないってことだよな。
数年もしたら、おれ達皆、ピンやゾロみたいになってたりして」
ぎえぇぇぇぇ!!
ピンやゾロには悪いけど、この年でそんなことにはなりたくなーいっ!
「やだやだやだやだ!絶対反対ーーー!」
私が手をあげて主張すると、今まで黙って聞いていたノルがぼそっとつぶやいた。
「おれはやっぱり家が欲しいな」

「お、いいね」「うん、いいんじゃないか」
珍しくパーティの意見が一致する。
そうよねー。拠点となる家は欲しいわよね。うん、わたしも賛成!
ん? ってことは。
「トラップもお願いするとしたら家をお願いするの?」
念のため聞いてみたら
「おれ? おれだったらしねーよ。家くらいそのうちギャンブルでいくらでも
建てられるだろうしよ」
だそうで…。まったくどうしてそこでギャンブルが出てくるのか理解不能だわ。
「じゃあ、わかった。“世界のお宝を手元に”って言うんでしょ?」
そう言ったわたしにトラップは人さし指をちっちっちと振った。
「んなもん、自分で見つけてナンボだろ」
「ふ〜ん、じゃあなんなの?」
「教えてやんねー」
ここまできて、その返答はないでしょう!わたしは頭にきてトラップに思いっきり
イーッて顔をした。すかさずトラップはベーッて顔で返す。
まったく、もう!!

わたしとトラップが喧嘩をはじめたのを見てクレイが割って入る。
「なんにしたって、あくまでも次にホワイトドラゴンに会ったらって仮定の話だからなぁ」
するとテーブルの足元でこれまたウトウトしていたシロちゃんが
「ホワイトドラゴン」の名前に反応して目をぱちっと開けた。
「他のホワイトドラゴンデシか? 次の集会のときにクレイしゃん達を紹介できると思うデシよ」

一瞬、全員で諸手をあげて喜びそうだったけど「次の集会」って50年後なのよね、確か。
今考えた願い事なんか全然役に立たなさそう……。たはは。
それにね。きっとわたし達のことだから、実際次にホワイトドラゴンに会っても
オロオロしちゃって願い事なんて1つに決められなくて「ちょっとタンマ!」って言ったら、
それがお願い事になっちゃったり……なんてことになりそうだし。
宝くじと一緒で実際当たらなくても「当たったらどうしようかな」って考えるのが
楽しいんだよね。
うん、だから、シロちゃんとシロちゃんのお母さんに会えた幸運だけでもう充分!
三度目はなくてもいいや!
……もちろんあったら、嬉しいけどね。

2へ続く
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