トップ創作SSトップ>星降る散歩
星降る散歩
※このSSは一応「依頼」の続きとなっていますが、「依頼」を読んでいなくても全く問題ありません。


[1]

マリーナに依頼された仕事をこなして、もらった報酬で皆へのおみやげも買った
わたしとトラップは、その後、慌てて乗合馬車に乗り込んだ。
というのも、危うくシルバーリーブに向かう最終の馬車に乗り遅れるところだったから。
トラップは今回ギャンブルする時間がないのが悔しかったみたいで、
もうちょっといたい雰囲気だったけど、冗談じゃない!
物価の高いエベリンでもう1泊なんてもったいないもんね。
しかも一人一部屋なんて、せっかくもらった報酬の残りだって全部ふっとんじゃう。

だから、無事間に合って馬車席に座った途端、安心したのと慣れない仕事をして
疲れていたのとで、猛烈に眠くなってしまって、気づいたら夢の世界へと旅立っていた。



ふと馬車の揺れで目を覚ますと
「よーくお眠りで」
と、いじわるそうなトラップの声。
あれ? もしかして、わたし、トラップに寄りかかって寝ちゃってたかな……。
ま、いっか。
気にせず、うーんと上半身を伸ばしながら聞く。
「今どの辺?」
「もう後十分くらいで着きそうだな」
そっか。もうそんな近くまで来てたんだ。
そう言えば、もう辺りは真っ暗!出発した時はまだぎりぎり日があったのに。
トラップの言うように本当に熟睡してたんだなぁ、わたし。
馬車にわたし達しか乗ってないからリラックスしちゃったのもあるのかも。


と、そんなことを考えていたら、いきなり馬車がふわっと一瞬宙に浮き、
再び地面に叩きつけられた。
「きゃあああああ!」
思わずトラップにしがみつく。
何? なんなの?
モンスターじゃないでしょうね?!
猛烈にやな予感がしたけど、大きな振動はその1回だけ。
御者のおじさんがこちらを覗き込む。
「すまないねぇ。なんか硬いモンが落っこちてたみたいで、
蹄鉄がはずれちまったようだ」
そうだったのかあ。
モンスターじゃなくてよかったー!
考えてみたら、もうシルバーリーブに近いんだから
モンスターなんかいないもんね。
……って、こういう時、モンスターじゃなくてすごく安心しちゃうのは
冒険者としてどうかと思うけど……。

安心したわたしはトラップから離れて馬車を降りる。
トラップも続けて降りてくる。
「大丈夫ですかー?」
馬の足元でしゃがんでいる御者のおじさんに声をかける。
「おぉ、大丈夫、大丈夫。……だけど、直すのにちょいと時間が
かかるから、もしお急ぎなら歩いてもらった方が早いかもしれないね」

そっかぁ。どうしよう。
わたしは振り返ってトラップに目で問いかける。
「おれはどっちでもいいぜ。歩いても二十分かかんねえだろ?」
そうだなぁ。
急いではいないけれど、今日みたいに気持ちのいい日なら
ちょっとお散歩兼ねて歩くのも悪くないかも。
そういえば、最近この辺ゆっくり歩くことってなかったし。
しかもね!
マリーナに依頼されたお仕事の時に着てたワンピース、実は報酬の一部として
もらえちゃったのだ。だから、今もそのまま着てるんだけど、ワンピースなんて
冒険者になって以来ほっとんど着たことないから、お散歩して女の子気分を
味わいたいなっていうのもあるんだ。

「じゃあ、お散歩と思って後は歩いて帰ります」
わたしがそう言うと、御者のおじさんは帽子をとって軽く頭を下げた。
「おぉ、すまないねぇ。じゃあ、もしも早く直って追いついたら
また乗せてあげるから。気をつけて歩くんだよ」
「わかりました!おじさんも気をつけてね!」
わたし達は馬車に乗せていた荷物を降ろした後、おじさんに手を振って、歩き出した。

2へ続く

inserted by FC2 system