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「王子」の仕業
光を感じてふと目を覚ます。

あぁ、そうだ。
今日は野宿したんだった。

手をついて、静かに少しだけ体を起こしてみると
とっくに消えた焚火の向こうに、見張り番をしていたはずの
クレイが座ったまま、首を深く垂れ熟睡していた。

……ったく、どこが見張りだよ。
なんて思ったものの、おれもよくやることだと気づいて苦笑した。
大体、おれが周りより早く起きるってのがかなり珍しい。

遠くで小鳥が朝のさえずりをしている以外、何も音のない静かな朝。

ふと左を見ると、隣ではパステルがこっちを向いてやっぱり熟睡している。
ま、隣と言っても間に後一人二人入れるぐらいの距離があるが。

おれは誰も起きてないことをいいことに、あいつの寝顔を見つめた。

こいつが14の時からずっと一緒だったのに、……いつからだっけな。
こいつの笑顔も寝顔も全部独り占めしたいって思うようになったのは。

はぁぁ。
なんでこんなことになっちまったんだろ。
おれは出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んでるお色気ねーちゃんと
大人の恋愛するはずだったんだ。
それが、鈍感で色気もねぇこいつに手も足も出せねぇでいるんだもんな。
どこで間違っちまったんだか……。

そんなこっちの想いはお構いなしに、口を少しだけ開けて
すーすーと寝息を立てている。
ったく、ほんと無防備だよなー。

おれはもう一度、誰も起きてないことを確かめると
そっとパステルの方へ身を乗り出し、右手でパステルの頬に触れた。
うわっ、柔らけー!
と思った瞬間、

「……ん」
と、パステルが動き出した。
どわーっ!
慌てて元の姿勢に戻って、たぬき寝入りを決め込む。



結局、パステルはこれをきっかけに起きたようで、少しすると
他のメンバーを次々起こしだした。
だんだんとにぎやかな朝になる。
そして、おれの動悸がおさまった頃におれを起こしにかかった。
肩をガクンガクン揺らす。
「トラップーーーッ!!朝よ、朝!」
「……うーん……」
「起ーきーて!全く、いっつも一番最後まで寝てるんだからっ!」
「……わぁーったって。起きる、起きる」
おれがだるそうに身を起こすと、あいつは満足気な顔をしていたが
ふと思い出したように、朝食用のキノコを持って隣に来たキットンに話しかけた。
「そうそう!そう言えば今日ね、起きる直前に王子様が現れる夢見たのよ!
これって何かの前兆かなあ?」
「王子様? ナレオ王子ですか?」
「あ……えと……そういう王子じゃなくて……女の子の言う『王子様』よ」
途端に声が小さくなり、顔が真っ赤になる。
キットンはそんなこと気がついていないかのように豪快に笑った。
「ぎゃっはっはっ!そうでしたか!
そうだとしたら、それは逆に残念かもしれませんね」
「え? どうして?」
「朝見る夢は逆夢って言って、逆になることが多いらしいですよ。
だから『王子様』は当分現れないんじゃないでしょうか」
キットンはそう言った後、またバカ笑いを静かな朝の空気に響かせていた。

「……だけど、妙に現実っぽかったんだけどな……」
パステルが納得いっていないようにつぶやいたのを聞いて、おれは
いじわる心がふつふつと湧いてきた。
「ふ〜ん。どの辺が現実っぽかったんだよ」
「ど、どの辺って……。いいじゃない、内緒よ、内緒!」
とうとう耳まで真っ赤になっている。
「あれじゃないの? パステルちゃん、単に欲求不満なんじゃないの?」
にやりと笑って言うと、途端に腕の辺をバシバシ叩かれる。
「な、な、何言ってるのよーーーー!! バカバカ。トラップのバカ!」
言うだけ言って叩くだけ叩いたら、顔は真っ赤なまま「ふん」とばかりに
くるりと背を向けて、朝食の準備に取り掛かり始めた。

横で会話を聞いていたキットンは、パステルにキノコを渡しながら
「ま、さっき言ったのはあくまでも迷信ですからね。現実感があるなら
正夢の可能性もありますよ」
とフォローしていたが、パステルは「もう、いいの!」と半ばヤケになっている。



「その『王子様』っておれだぞ」って言ったら、こいつどうするかな……なんて
思ってみたけど、親の仇みたいにキノコをザクザク切っているパステル
を見てる限り、また叩かれて終わりなのは目に見えていた。

まぁ、いいか。
そのうちまた、夢の中の王子様の仕業にして今日の続きやってやる。

……多分。

……きっと。

……そのうち。

まずは早起きがいつできるかだけどな……。



Fin
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