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恋心
気持ちのいい昼下がり。
そろそろ…かな、マリーナが来るの。

昨日からエベリンに買出しにきた私達。
なので、当然昨日も1回マリーナに会っているのだけど、
私はふとアイデアを思いついてしまったのだ。

名づけて「クレイとマリーナを二人っきりでお話させてあげよう作戦!」。

だぁって…ねぇ。
クレイとマリーナが会う時って大抵「パーティ皆と」でしょう?
今まではあんまり考えてなかったけど、この間マリーナと話して
気持ちをはっきり確認したからには、私のおせっかいな気持ちが
ムクムクしちゃって。
なので、マリーナに昨日の帰り際(当然これまた皆でお見送り)そっと
「明日の午後もう1回来れる?」
って聞いたら「うん、大丈夫よっ!!」って満面笑顔の返事。
好きな人に久しぶりに会えたからだろうなぁ…マリーナってば
ほんと「恋する女の子」になってる。いいなぁ…。
私はすかさず「そしたら明日はクレイとゆっくりお話してね♪」
と耳打ちして意味ありげにウィンクを…多分ウィンクになってなかったと思うけど…
してみた。
マリーナはえ?という顔をしたけど、その時にはもう
私は少しマリーナから離れて皆と一緒にニコニコと手を振ったので、
マリーナはまったくもぅって顔を一瞬私に向けた後、
パッとまた笑顔になって「ありがとね、パステルっ!」って言ってから
これまた皆に笑顔と手を振りまいて帰っていった…。
ということで、今がその作戦開始時間になった訳。

とりあえずルーミィとシロちゃんは私の部屋でお昼寝始めたところだから
当分OK!ノルは小屋の方でこれまた問題なし!
一番やっかいなのはやっぱり、クレイと同じ部屋のトラップとキットン。
とにかく部屋に行ってみるしかないよね。

コンコンッとドアを叩いたら、中からクレイの「はい」との返事。
「私なんだけど…」
と言いながら素早く部屋の中を観察っ!
クレイは昨日買った「剣の心得〜迷いを捨てよ」という本を
読んでるところらしかった。ってことは、当分出かけないわよね。
それが一番心配だったので、ほっとした。
…と…「あれ?キットンは?」
「う〜ん、なんか調べ物するとかで図書館行ったみたいだよ。」
「そっかぁ。エベリンの図書館の方が充実してるもんね!」
「キットンに用だった?」
「え?ううん。そういう訳じゃないから大丈夫!」
と話しながら、心の中ではガッツポーズ!!
キットンのことだから、図書館なら時間を忘れるほど調べ物するに違いないもん。
ラッキー!!

となると、話は簡単で。
この会話の最中に
「…んだよ。人が気持ちよく寝てれば隣でがぁがぁと」
とベッドの上でうっすら目を開けたトラップさえ連れ出せば作戦完了じゃない!

「トラップ!いいとこで起きてくれたな〜。ねぇねぇ、買い物つきあってよ」
また寝ないように近寄ってベッド脇にひざをついて言うも、トラップは
ジロリと一瞥した後
「人起こしてさらにパシリかよ」
と言ってぐるりとこちらに背を向けてまた寝る体制に入ってしまった。
や〜ん、「話は簡単」なんて帳消しっ!
トラップを誘い出すことほど大変なことはないんだったわ…。
ちょっと途方にくれかけたところで後ろからクレイが
「ならオレがつきあおうか?別にヒマだし」
と言ってくれた。い、いや普段なら「言ってくれた」だけど、この場合それじゃ
意味ないのよ〜!
「やっ、あの、今日はトラップにお願いしたくって」
こういう時とっさにスマートな嘘をつけない私って…。
絶対突っ込まれる!と思った瞬間、背を向けてたトラップがむくっと起き出し、
「ふ〜ん、“今日は”ねぇ。よくわかんねーけど、そうまで言うなら
買い物行こうじゃねぇの」
と言いながらもう扉に向かって歩き出したので、慌てて後を追う。
クレイも「そっか。じゃあ、よろしくな」と私の不自然さに気づいてないのか
流してくれたのか、そのまま送り出してくれた。
よ、よ、よかったぁ…。
これでなんとかマリーナへの約束は果たせそう!!

----1----

「んで、おめぇは一体何企んでる訳?」
とりあえず一番メインの商店街に向かって歩き出したところで、トラップは
ニヤっと私にいじわるそーな顔を向けてきた。
…やっぱりトラップには私の不自然さバレバレか…。
「べっつにー。」
とにかくここは流すしかない。
と、さらにトラップは嬉しそうにいじわるな顔を輝かせ
「おめぇさ、最初はキットンの居場所確認して、次はおれを連れ出しただろ?
それってどー考えてもクレイを一人にしたかったってことだよなぁ?」
げげげー!キットンの会話のところから起きてたの〜?
しかもなんでそこまでバレちゃうのよっ!!
「そっ、そんなんじゃないもん!」
うっ…ほんとに私ってどうしてスマートに流すことさえできないのかしら…。
自分に情けなくなってくる…。
でも、トラップはそこから先は突っ込むこともなく、
「ま、いいんじゃねぇの。」
と言いながら、私の頭をぽんぽんと叩いた。
な、なんか「おれは全てわかってるぜ」って感じ。
く、く、悔しーーーーーっ!!!

そんな会話をしているうちに、メイン商店街の入り口が見えてきたのだけど。
とっさに「買い物」と言ったはいいものの、実は昨日ほとんど買いたいものは
買っちゃったから、特に用事はないのよね。
う〜ん、どうしよう。
と。

「おおーーーーいっ!その子っ。その子捕まえてくれ!万引きだー!!!」
商店街の入り口からおじさん風の声が聞こえてくるのとほぼ同時に
私達の目の前を私の腰に届かないくらいの背丈の子がすり抜けていった。

まだ昼間だからか、そんなに人出もなく、逃げているその子に未だ一番近いのは
私達だった。私とトラップは目を合わせて、追いかける。
助けを求められると動かなきゃって思うのは…やっぱり冒険者魂ってやつかも。

でも当然のことながら、トラップの方がだんだん先に行っちゃって。
その子はその子で脚力には敵わないと思ったのか、狭いところや低いところを利用して
逃げるので捕まえられそうで捕まえられない。
私はもうその子を追いかけるというよりはトラップを見失わないように追いかけるので
精一杯…と思いながら、トラップが消えた角を曲がると、そこは行き止まりになっていた。

「こっのクソガキャー!てこづらせやがって!」

トラップはさっそく座った状態でその子を羽交い絞め状態にしていた。
バタバタ暴れてるのは、5歳前後の男の子。
「ちょ、ちょっとトラップ!子供相手に本気はやめてよね!!」
慌てて近寄ると、トラップも少し手を緩めたのか、スルっとその子が
トラップから逃げ出した。
そして大粒の涙を浮かべながら
「お、おねぇちゃーーーんっ!!ごめんなさぁぁぁぁいっ!」
と私の太ももにガシっと抱きついてきたのだ。
トラップは「ケッ。今度は泣き落としかよ」ってあきれてる。
でも、つい追いかけちゃったけど、小さい子だし、ここまですることなかったのかも…。
ちょっと後悔の念が湧き上がってきた私は、抱きついてきた小さな手を
ゆっくりとはずしながら、しゃがんで同じ高さの目線で話した。
「こっちも追いかけちゃってごめんね。でもね、あのおじさんのお店から何か
とってきちゃったんだよね?見せてくれるかな?」
するとその子は涙でべちょべちょになった手をポケットに入れてから
「はい」
と差し出した。
それはなんと、日に当たってキラキラ光ってはいるもののおもちゃのペンダントだった。
「これ…。どうするつもりだったの?」
するとまた涙の波がやってきたのか、ヒックヒック言いながらも一生懸命
説明してくれた。
「あの…あのね…ヒック。うちパパいなくてね…ヒック。ママも…ママも
病気がちでね…ヒック。お世話してくれる人がいるから…ヒック。
食べるものはあるけどね…ヒック。ママにきれいなものつけて欲しくてね…ヒック。」
そ、そうだったのかぁ…!いい子なんじゃない!!
私は思わずもらい泣きしながら、その子が愛おしくなってギュッと抱きしめてから言った。
「そっか。じゃあ、私がおじさんにお金払うから大丈夫よ。心配しないでね。」
すると、ずっと黙っていたトラップが突如例のセリフを言い出したのだ。

「甘い!甘い甘い甘い甘い!!」
「えーーーーっ!!トラップったらこの後に及んで何言うのよ!今この子の事情
聞いたでしょ?」
涙も引っ込み、トラップをにらみつける。
「ったり前だろ」
「じゃあ、いいじゃない!それともこんな小さな子を犯罪者として突き出せって言うの?」
私の犯罪者という言葉にその子がびくっとする。うぅ、ごめんね。
「違ぇーよ。そんなことは言ってねぇだろ?ただな。ここで金をぽいっと渡すことが
コイツのためにはなんねぇって言ってるの。そしたら、コイツはまた万引きして
大人にすがって金もらうようになっちまうだろ?」
「じゃ、どうしろって言うの?」
憤慨してる私には目もくれず、トラップはあぐらかいて座ったままその子に向かって話し始めた。
「あんな。金っていうのはさ、“頑張ったご褒美”なんだよ。頑張って人のために働いて、
それで金もらうんだよ。で、そのご褒美をお店に持っていくとおめぇの欲しいもんが
代わりにもらえるんだよ。わかるか?」
いつの間にか泣き止んでたその子は黙ってコクッと頷いた。
「よし。じゃあ、おれの肩をもめ。」
一瞬きょとんとしたその子を見ながら
「だぁら、おめぇ追いかけて疲れてんだよ。肩もんだら“頑張った褒美”ってのをやるよ」
と説明するようにトラップが自分の肩の部分をくいくいっと指した。
「…うん」
その子は涙の後をもう1回ぬぐいながらトラップの後ろに回って
小さい手でうんうん言いながら肩を押し出した。
「お!いいねぇいいねぇ」
トラップは極楽って顔してる。
でも、私は知ってる。
トラップは肩凝りしないってことを。
あんな小さい子が肩押しても全然ツボには入っていないだろうことも。

「ホレ!どうした」
「あともうちょい!」
トラップは掛け声をかけながら、最後には「よし。大分肩がラクになったぞ」
と大げさにぐるんぐるん肩を回して
「んじゃ、約束の褒美な。」
と、ペンダントの金額よりも多いであろうお金をその子に渡した。
私がふ〜んって顔してたら、なんだよって視線で返されたけど。
その子は大事そうにお金を手に握り締め、
「ありがとうっ!!」
と私達に会ってから初めてのキラキラ笑顔を見せてくれた。
かっ、かわいいーー!!
2へ続く
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